まず「レコーディング・エンジニアの仕事はテレビなどでチラっと移るようなカッコイイ雰囲気は全然なく、相当地味で地道で報われない仕事です」
という事をまず覚悟して下さい。
そして月々400時間!も働かせながら「え?」と呆気にとられるほどの低賃金でもあります。スタジオにうまく潜り込んでも、40才まで一線でやっている確率は20%もないくらいではないでしょうか。
【私の場合】
ほとんどの人がレコーディングの専門学校か音楽の専門学校のレコーディング科卒業か中退後、レコーディングスタジオに最初は「見習い」として入っています。大きな専門学校では卒業する半年ぐらい前からツテのあるスタジオに「研修」と称して見習いをさせてもらえます(ほとんどタダ働きですが)。
私は大学(文化系です)4年の時の就職活動ではスタジオを持っているレコード会社を中心に応募していましたが、成功しませんでした。卒業した後、半年就職浪人してから「ビーイング」(求人誌) に東芝EMIの記事がたまたま出ていたのに応募したら受かってしまいました。在学中から友人のツテでベイブリッジスタジオというところで電話番をしていたのと、真面目そうだったのが良かったのだと思います。倍率は20倍以上だったと思います。
【レコーディング・エンジニアの仕事】 まずはどんな仕事なのかを理解してください。
・楽器の演奏はしません。
・曲も作りません。
・印税収入はありません。
・スタジオに所属して時給か月給で働いている人と、「フリーランス」で時給で働いている人が半々です。
ただし、最初はほとんどが一旦、スタジオに所属します。
【1日の様子 – レコーディング1曲】
・ミュージシャンなどが来る前に、スタジオに一番乗りして機械の電源をいれ、掃除、その日に使うマイクやイフェクターを運びます。(午前10時ごろ)
・ミュージシャンなどが来る前に、マイクやイフェクターを全て接続し、マイクチェックをします。譜面台や椅子、キューボックスも用意します。
・コーヒーなども入れておきます。(自分が飲むためではありません)
・ローディやミュージシャンが来たら演奏場所までを案内し、楽器の搬入をお手伝い。
・プロデューサーやアレンジャーが来たら譜面をお借りして、ミュージシャン+作業用に必要な部数をコピー。
・ミュージシャンから音を出してもらって、サウンドチェック・音量/音質の調整。(午後1時ごろ)
・プロデューサーの指示に従い、ベーシックトラック(伴奏)の録音。
・何度か録音と試聴を繰り返し、OKテイクが出たらパンチイン(差し替え)
・ギターソロなどのオーバーダビング(午後5時ごろ)
・ボーカルの録音。6-8テイク録音して、細かく編集。(午後8時ごろ)
・コーラスダビング。(深夜12時ごろ)
・仮ミックス(深夜3時ごろ)
・プロデューサーやミュージシャンにお渡しするためのCD-Rを焼きつつ、片付け(深夜4時ごろ)
【1日の様子 – ミキシング1曲】
・スタジオに一番乗りして機械の電源をいれ、掃除、その日に使うイフェクターやマスターテープレコーダーを運びます。(午前11時ごろ)
・コーヒーなども入れておきます。(自分が飲むためではありません)
・まずは下ごしらえ。細かく編集してノイズなどをカットします。(午後1時ごろ)
・バスドラム・スネア・タム・ハイハット・シンバルといった順番にドラムの音作り(午後2時ごろ)
・ベースの音作り(午後4時ごろ)
・バッキングギターやキーボードの音作り(午後5時ごろ)
・ボーカルやコーラスの音作り(午後7時ごろ)
・プロデューサーやアーチストがやって来るので、一度雰囲気を聞いてもらう。(午後8時ごろ)
・方向性OKなら残りの作業。
・本格的にプロデューサーやアーチストに試聴してもらい、要望を聞く(午後10時ごろ)
・要望に対処していき、再び試聴、を繰り返す。
・最終OKになったらマスターテープレコーダーに録音。(深夜2時ごろ)
・プロデューサーやミュージシャンにお渡しするためのCD-Rを焼きつつ、片付け(深夜3時ごろ)
【レコーディング・エンジニアになるために】
1.とりあえず普通の高校で部活もやり、友人を作り、勉強をし、できればバンドなどの音楽活動をし、バイトなどで社会的な(礼儀など)訓練を受けたりするのが良いと思います。この仕事は体力と人間関係(礼儀、態度、気遣い、常識)が最も重要です。そして偏らずいろんな音楽を聴いて下さい。オーディオ器機にこだわるのも役に立ちます。
2.卒業したら専門学校(か大学)に行き、まずはProToolsを買ってしっかりマスターし、専門学校のスタジオでとにかく録音しまくることです。今やProTools無しでは先に進めません。その後は在学中であろうが自分に自信が無かろうがスタジオに潜り込む口を逃さないことです。
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普通のエンジニアとして必要な電気と音響、音楽理論は真面目にやれば専門学校2年間で十分習得できます(今は検定試験もあります)。しかし、専門学校でどんなに優秀でもプロの現場では赤子同然です。仕事のことは現場で覚えるしかありません。どんなに知識を増やしても、現場の緊張感(とスピード感)の中では役立たずです。でも経験を積んでいけば最初の知識も十分生きてきます。
3.リット−ミュージック社から月刊で「サウンド&レコーディング」誌が出ていて、たくさんの情報が出ているので読んでみることをオススメします。
4.音楽の勉強をすると言っても、音大に入る必要はありません。音大に入ろうと思ったら、結構な楽典の知識とピアノか他の楽器の演奏能力が必要で、「子供の時から習っています」くらいでは入れませんし。「エンジニアで音大卒の人」というのは実際、ほとんどいません。「音大卒ぐらいの音楽技能や知識はエンジニアには必要ない」と言えば必要ないですし、それだけの知識があるのならミュージシャンやアレンジャー、ディレクターを目指す方がストレスも溜まらなくて良いと思います。実際最近は何も知らないミュージシャンも多いですから。小節数が数えられて、譜面が追えて、簡単なコードだけ知っていればエンジニアとしては十分です。
採用する方の会社(スタジオ)も「音大卒」なんて言ったら「ノンビリした人」という印象をもたれかねない(そんなこと無いと思いますけど)ので、さほど勧めません。この業界、まずはフットワークやスピードが第一なのです。
エンジニアに(警察や官僚のような)エリートコースはありません。今の一流のエンジニア達も、業界に入る過程も様々ならその後の修行時代も様々です。それでも彼らは皆一様にタフで、豊富な経験を積み、謙虚で、音にも発言にも説得力があります。机にしがみついてやる勉強はそんなに多くは必要ありませんが、とにかくスタジオに入って寝る間を惜しんで修行する(研究する)、人間としての人格を磨く、のが唯一の道です。
「とにかくスタジオに入ってみろ。後は君の努力次第」
世界の一流を目指す、なら高校卒業までに英検一級くらいをとって、外国の専門学校に行って、そちらで就職するのもテです。とは言っても一般に日本より遥かに就職難(高失業率)ですから就職できるとは限りません。外国のレーコディング雑誌にもそういう人からの投稿が載っているのをよく見かけます。
「エンジニアはCDを自分の思ったとおりにできる」なんて思ってたら大間違いです。基本的にはアーチスト、プロデューサー、ディレクター、アレンジャーの無理な注文を聞いて(自分が納得できなくても)言われるがままにやるだけです(かなり大袈裟ですけど。仕切りの良し悪しにかなりよります)。もちろん経験を積んで、周囲からの信頼を得られれば、いくつかの提案をしたりすることもできますが、そうなるまでにはアシスタントを卒業してから何年かかかるでしょう。
仕事を選ぶ権利もありません。エンジニアなんて超買い手市場ですから、「自分の好きなアーチストの仕事をしたい」と思っても、向こうから指名してもらわなければ一生できません。気にくわない現場でもひたすら「次の仕事」につながるように謙虚にがんばるしかありません。
「仕事」ですから。 もちろん仕事をしたい相手にデモを聞いてもらったり、コンタクトをとってアピールしていくのはどの仕事でも同じです。
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